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19.心因性疼痛

 以前、高校3年生のK子さんが、腰が痛くて学校へ行けないとお母さんに連れられて来院された。病院で検査しても特に異状は見られないとの事だった。
 確かに体を診ても特に変わった所見は見られなかった。単に筋肉痛だろうと治療し術後は楽になったと帰って行かれた。

 ところがその後やはり腰が痛くて学校へ行けないと3ヵ月程度々来院され、しかも次第に痛みが増していくようでそのうち杖にすがって歩く状態になった、はたから見ていても如何にも痛々しい。
 何かもっと重大な病変が隠れているのかもと思い、再検査してもらってもやはり異常は見つからない。全身をよく診ても所見がない。
 一般に、それ程ひどい腰痛が出る場合は下肢に筋肉の強張りとか委縮とか関節の炎症とかそれに見合う所見が必ずある。
 それが全くない、どうもおかしいなと考えた挙句、ふっとこれは心因性ではないか?学校へ行くのが嫌なのではないかと思いそれとなく聞いてみると学校は好きで早くいきたい、母親もこの子は学校を嫌がってることはない、腰痛のために行きたいのに行けないと言われる。

 その後腰痛は改善せず休校が続いたが学校の取り計らいで1年遅れで卒業は出来た。学校へ行かなくてもよくなると同時に腰痛も治ってしまった、やはり結果的には登校拒否だったようだ。

 その後同じような心因性疼痛の患者さんは何人か来られた。これは決して仮病ではない、本当に痛い、却って激痛になる場合が多い。
 意識は学校や仕事が好きだと思っていても潜在意識は嫌がっている、そのずれによる葛藤を脳が痛みとして感じるようである。
 推理小説作家の夏樹静子さんがこの心因性の腰痛に3年間苦しみ、その顛末を「椅子が怖い」という題名で本を出されている。なかなか興味深い内容である。

 この病気の厄介なところは本人が心因性ということを絶対認めないことだ。まず認める、潜在意識と意識との葛藤がなくなれば治る、ただ言葉では簡単だが潜在意識を変えていくのは人生観を変えるくらい超むづかしいなア。

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